2007年6月24日(日)

古座間味ビーチに並べられた出走艇の中で『えすぷり』はひときわ小さかった。 大きいものでは排水量3倍以上、セール面積も倍以上はあろうかというアウトリガー付きのサバニに圧倒される。 パフォーマンスの違いがありすぎることを認めざるをえなかった。 トラディショナルにこだわった『えすぷり』の宿命である。


左から2艇目が『えすぷり』 リーフしているがマストの長さがぜんぜん違う

過去の記録を見ると時々接触事故があるようで、「スタート直後の混乱を避ける」ことを使命にスタートの舵は私が指名された。 その作戦は...

スピード命のサバニは細長くあまりクイックに回頭しない。 その割にリーウェイするため、ピリピリしている周りの舟が出払うのを待ってから出艇させることにした。 スタート直前になって最初のヘディングをどこに取るかお杉と相談する。 潮流の予測データなどを用意していたが、前夜祭で盛り上がり過ぎてしまいデータを十分に把握できていなかった。 また、前日に折れたバテンを修理するためにセールをバラしていた都合で、スタート前はシート類の再セットアップでまったく余裕がなかった。
南風が予想より強く吹いていることもあり
「ラムラインを狙って左手前の岬に張り付くとやっかいですよ、浅瀬もありますし。 風も潮も強いですからビーチの真正面をねらって行きましょう」
「おっけー、110度くらいだね、アビームより若干上りになるけど...」
「最初だから安全パイで行きましょう!」


スタートすると各艇思いのほかラムライン上の岬を目指してがんがん岸寄りを攻めて行く。 明らかに上らせ過ぎだと思ったが、作戦を無視するような行動には出ない方がいいだろう。 それに全行程を考えればさほどのロスとも思えない。 海峡に出たら得意のダウンウィンドで一気にゲインすればいい。 前の漕ぎ手二人に声をかける。
「長丁場だから力入れすぎないようにね!」「おいーっす!」
確かに後日になって慶良間海峡の潮流予測を見直すと、その時間帯は北から1.1Knなのでそこまで上らせる必要もなかった。
しばらくしてお杉から指示が入る。
「そろそろ(風下へ)落していっていいですよ」「アイアイ」

海峡に入った頃にはすでにほとんどの舟が渡嘉敷島北端の儀志布島に差し掛かっていた。 ピッチの細かいうねりが続いており、未経験の海況に少々の恐怖心を覚える。 優雅なサーフィングをイメージしていたのだが、ロールを抑えきれずに舷側から海水がザザーッと入る。『えらいこっちゃ...』
「オッくん、アカ汲みお願い!」「ハイ」
ちょうど海況の悪いエリアに入っているのではないだろうか。 そう思いゴムボートに叫ぶ。
「ナビゲーションして! どっちへ行けばいい!!」
なかなか返事がない。
「うねりがマシなところはない?!」
しばらくしてゴムボートのお杉から返事があった。
「どこもこんな感じです!」『マジかよ...』
細長いサバニはうねりに対し角度をつけ過ぎると底でもトップでもローリングが不安定になる。 うねりに対し走りやすい45度くらいの角度をキープして儀志布島を目指す。


V字底と細さがよく分かるショット

「ジャイブしてください!」
「えー! (このうねりの中ジャイブするのは)リスキーだよ! もっと落したらかわせる!」
「ダメです、儀志布島の脇は波が悪そうです!! 一度出しましょう!」
行き先に目を凝らすと確かに白波が立っている。 さっき、どうにかせい!と言った手前もあり仕方なくジャイブを決断。
漕ぎ手に声をかける。
「ジャイブするよ!」「ハーイ」(意外とノー天気な返事)
追ってくるうねりを横目で見ながらタイミングを計る。 ジャイブ成功!

「そろそろ返しましょうか!」
「またジャイブか...」「ジャイブですね」漕ぎ手の二人が応える。
追ってくるうねりを横目で見ながらタイミングを計る。 ジャイブ成功!
『うまいじゃん』と自画自賛。

「そろそろ1時間ですが交代しますか!」お杉が声をかける。
「いや、このうねりの中で交代するのはキツいだろう。
儀志布島をかわしてからにしよう!! 前の二人は大丈夫?」
「ダイジョブデース」黒い二人が応える。
「よし、漕ぎは休憩。 おケツの下に転がってる水を二人で飲んでいいよ」
「何これ、ウマーイ!」「この水ウマーイ!」
薄め(ハイポトニック)に作った泡盛の水割りだ。 もとい、アミノバイタル+クエン酸のスペシャルドリンクだ。

いよいよ最初のランドマーク儀志布島が近づいて来た!
渡嘉敷島の陰になり南からのうねりは少し収まってきたが、島からのダウンバーストがキツい。 前寄りの一枚帆なのにうねりに乗って舵効きが悪いときにブローチングのように上へ切れ上がる。 必死で舵とメインシートを操り続ける。 このとき細長い竹のティラーにかなり負荷がかかったかもしれない。
ちょっと狭い小島の間を抜けようとすると他のサバニが沈していて緊張する。
そして儀志布島をかわした。 YATTA-!

☆☆☆★★★☆☆☆★★★☆☆☆★★★☆☆☆

ここで最初のクルー交代。 次の舵はお杉だ。 今年私の出番はこれで終わりのはず。 1時間20分くらいだったと思うが懸命にヘルムとメインシートを操ったので結構疲れた。 あとはゴムボートからナビゲーションしながら、難所と予想されるチービシにアタックするメンバーの控えとして体力を温存するつもりだった。

ゴムボートから風向をチェックする。 180度。 少しくらい西っ気があることを期待したのだが見事なまでのカーチバイだ。 潮流予測によると潮は気にしなくてもよさそうだ。 風によるリーウェイだけを考慮しヘディングを前島と中島の間に指示する。 そうすれば黒島南側の浅瀬は十分かわせるだろう。 昨日、浅瀬の三角波に懲りているのでできるだけ避けたい。 はるか先、ハテ島(前島の北側)の北側にサバニの船団が見える。 やはり倍は速いようだ。

広いところへ出たので海況はうねりもなく、お杉は若干の上り航で順調に距離を稼いでいく。 ヘルムとシートを操る姿勢が前乗りでいつになく格好いい、気合いが入っているのが伝わる。 颯爽と走るサバニ『えすぷり』の姿も最高に格好いい! CABOにもっと前方から写真を撮ってもらいたいと思った。 が、トランシーバーなど連絡をとる手段がない。 クローズホールドまではいかないが、『主索をきりりと引けば舟がかしぐ間切り走り』のアメリカ亀やんに思いを馳せる。 黒島南の灯台も視界に入ってきた。


お杉のヘルムで一番格好よかったレグ

「よし、黒島の灯台越えたらクルーチェンジしちゃおうか。 次の舵は誰?」
「お杉が続けてもうワンレグやることになってます。」
とゴムボート上で会話していたら
「すいませーん!! 交代! 交代!」お杉が叫んでいる。
慌ててゴムボートを近づける。
「手が痛いんで交代お願いします」『まぁ、格好よかったから許すか...』
「替わりますよ」と宮ちゃんが言うので、ここで2回目のクルー交代に。

「よし、次のヘディングはハテ島の右側狙いで行こうか!」「了解!」

黒島南の灯台からハテ島はアビームより若干の下り航なのだが宮ちゃんはどうしてもアビームあたりで落ち着いてしまう。 これではハテ島をかわせない。 そう言えば、今回はアビームと、潮に流された後のリカバーを想定したクローズホールドの練習しかしていなかった。 セールを出し気味にしてダウンウィンドを走る練習はほとんどしていない。


前日の練習シーン。 ブローが入って慌てているところ

さぁどうしようか、と前方を見ると、先行艇がハテ島と中島の間へ向かっているのが見えた。 あの間は引き潮のときはとても通れないが、もしかしたらスタート時の干潮から3時間ほど経ちトップフリートはハテ島の北を通らざるを得なかったが我々は抜けられるのか...と淡い期待を胸にした。
「CABOに見て来てもらおう!」
ところがCABOの姿がない。 肝心なときにいないんだから~!
「じゃあ、ゴムボートで見に行こう!」「ヨシ!」
ゴムボートのバウに乗っていた私は気が急いてスピードが上がるように前乗りを強め、スタートからずっと操縦してくれている社長がスロットルを全開にする。 っと、ゴムボートがバウ沈しダバダバダバーと海水が入る。
「うわーっ!!!」一瞬にしてボムボートの8割方が水面下に沈んだ。
「ひえーっ!!」「だだだ大丈夫、水をくみ出そう!」
焦るあまり皆、素手や手ぬぐいでバシャバシャと水をかき出すが焼け石に水。 不謹慎ながら少し笑ってしまった。 自分は冷静を装ってシュノーケリングのマスクが入っていたケースを見つけ、それで水をかく。 が、やはり焦っているのでケースをボートの外に放り出してしまい慌てて拾う。
「CABOのバケツが欲しいなー」
CABOの姿はない。
社長が「マスクを貸せ!」と叫ぶ。 水中でも覗くのかと思ったらマスクで水をかき始めた。 全員必死で水をかき出し続ける。 さっきCABOから乗って来たばかりのKIKIが「違うことでつかれちゃうー」と言って皆を笑わせる。


前日の練習シーン。 漕ぎ手の息も合い、滑るように走る!

そろそろとゴムボートを走らせ始め、ハテ島の南の状況を必死に見極めようとする。
「イラちゃんはわりと通れる風に言っていたけどな」
「ここ抜けられるとけっこういいゲインになるね」
そう言っていると先行艇が突然向きを変えた。 浅瀬に差し掛かる直前の進路変更で中島のブランケにも入りフラフラと安定していない。
「やばい、こっちは早めにジャイブだ!」
宮ちゃんはジャイブが苦手なので不安がよぎるが仕方がない。 水をかき出しながらゴムボートをサバニへ戻す。

「宮ちゃん、ジャイブだ!」
宮ちゃんが恐る恐るジャイブを始める。
「今だ、メイン返せー!」
しかし帆がなかなか返らない。 帆が返ったときにはタイミングが遅すぎてそのまま沈。
『えすぷり』の初沈にゴムボートから不安げなため息がもれる。 さっきの先行艇も少し先で沈している。

艇の方向をジャイブ後のタックに合わせてすばやく水をかき出すクルー達。 4分ほどでリカバーしたのでなかなか早い、練習の成果があった模様。
ようやくCABOが帰って来た、チービシの様子を見にいっていたようだ。
「この先は波が高いよ!」との声に急に不安が高まる。

リカバーした『えすぷり』は少し沖出しした上、次のジャイブには成功! ハテ島北側の浅瀬をうまくかわすことができた。 黒島からハテ島まで順調に走ってきたのだが、宮ちゃん自身は沈したことで意気消沈しているように見えた。
「クルーチェンジしようか」
「次の舵手がまだCABOです」
この先は波のコンディションが悪くなるため、クルー交代をするなら今しかない。 その後の過酷な奮闘を思えば慌ててクルー交代する必要もなかったのだが、その当時はまだ無用な沈を避けることが最優先課題だったのだ。
「いや、今はCABOまで往復する時間はない」
やむを得ない。 腹が減っていたし腕も疲れていたが『代打オレ』しかなかった。


前日のインスペクション待ち。 「バテン折っちゃってどうすんだよ~」

☆☆☆★★★☆☆☆★★★☆☆☆★★★☆☆☆

ナビゲーションはどうしよう。 ゴムボートにはすぐにCABOへクルーの補充に行ってもらう段取りになっていた。 チービシの方角はほぼ90度、昼頃から南から0.8~0.9Knの潮流予測を把握していた。 あとはどれくらいのドリフトアングルをとるかだ。 自らの首にハンドコンパスを掛け『えすぷり』に乗り込んだ。 さっき早めに上がってしまった代わりとばかり、お杉が漕ぎ手として名乗り出てフォクスルへ。 ミジップにはアカ汲み名人のKIKIが乗り込んだ。 慶良間海峡のときより大きな不安を胸にゴムボートを離れた。

しばらく走り始めるとやはりうねりが大きくなってきた。 はるか先に本島の島影が見える。 こんなところを走れるのだろうか。 南からひっきりなしに襲ってくるうねりを斜めにひとつひとつ越えてゆく。 さすがにこの状況でコンパスを覗くことは不可能だった。 コンパスをお杉に手渡す。
「ヘディングどう?」
「135です、もっと(風下へ)落してください」
「アイアイ」

確かに上らせ過ぎだったがターゲットとした110度辺りでのホールドがどうしてもできない。 少しでも落してうねりを横から受けはじめるとサバニはコントロール性が格段に悪くなりいっきに90度くらいまで落ちてしまい真横からうねりを受けることになる。 ロールも激しくなり舷側から容赦なく海水が流れ込む。 「KIKI! 水汲みお願い!!」

そうしているうちにますますうねりが高くなる。 平均で1.5m、最大で2mの波高と言っても大げさではないと思う。 アイポイントの低いサバニから目線をはるかに越える波は本当に恐ろしい。 『こ、これ行けるの?』と不安だったが、走りに集中して恐怖心を抑えるしかなかった。 『行けるところまで行こう...』
ローリングも激しくなってきた。 3人とも風上寄りにお尻を置いているがうねりのトップでヒールし始めるとメインシートを目一杯出した状態でさらに上体を風上にせり出す必要がある。 逆にアンヒールしたら目一杯のパンピングをして耐えなくてはならない。 腕のストロークをフルに使った辛いセーリングが続く。 もう一方の腕ではうねりを乗り越えるために大きくティラーを操っていた。 波にあおられて後ろへひっくりかえりそうになるが、足をひっかけてなんとか体勢を保つ。 お杉には悪かったが135度くらいまで上らせないと航行は無理だった。

KIKIに水汲みを頼むのが頻繁になってきた。 気の毒だが致し方ない。 必死の思いでセーリングを続けていると突然背後から「ボー----!!!」と腹に響く汽笛が聞こえた。 一瞬振り向くと風下側に観覧艇になっている『フェリーざまみ』がいる。 デッキには大勢の人がいるのが分かった。 ここは頑張らなくては!と気合いが入る。 ウチの社員も乗っているので、見えるか分からないが一瞬腕を上げて応える。


『えすぷり』ファンの熱い声援を浴びる(ような気になる)

うねりに翻弄されながら進む。 波高の割になんだかピッチが細かい。 パンピングする腕が辛い。 精神力の戦いになっていたが、そこに『フェリーざまみ』がいることが頑張るための口実になっていた。 いいタイミングで現れてくれたのかもしれない。 後で聞いた話では、フェリーから見ていると『えすぷり』が波間に入ると船影がまったく見えなくなりその度に『沈か!』と思わせたそうだ。 そうしているうち、KIKIは懸命にアカ汲みを続けてくれていたのだが、舟が揺れた瞬間にバケツを舟の外へ落してしまった! バケツが猛烈な水圧を受け舟の向きが変わるほどだ。 メインシートを足で抑えて片手でなんとか引き上げる。 舵が壊れたらバケツを使え、ってこんな感じか...


前夜祭で盛り上がり過ぎて目が赤いkogaji。 この後、2時間半にわたって懺悔する。 右はそれにつき合わされるオッくん。

後日海図をよく見ると、ちょうどその辺りの海域は水深が13mほどまでに浅くなっており海況の悪さはその影響だった可能性がある。 しかし、その時は例えば『しばらく粘れば徐々にうねりが収まってくる』といったアタマがなかったため、このコンディションの悪さが那覇まで続いてチービシに近づくと更に悪化するのではないか、という悲観に陥っていった。 そのため、『海況の悪いエリアを乗り越えるまではヘディング135度を維持し(どうせリーウェイが激しいので結果的には大した上り過ぎにはならないハズ)海況が回復してからダウンウィンドに転じる』といった作戦が成り立つとは思えなかった。

実は、少し前方に『まいふな』がセールを降ろし漕ぎだけで同じ135度で航行しているのを見ていたのだが、今思えばその山城師匠の背中についていくのが正解だった。 あ、いや、それだとクライマックスがなかったかもしれないから、私の判断で良かったことにしておこう。。。

交代してから30分弱は経ったであろうか、『フェリーざまみ』の気配を感じなくなっていた。 ギャラリーもいなくなったし沈してもしょうがない、なんとかヘディングを修正しなくては。 意を決してお杉に風下へ落すことを伝える。 110度くらいにはもっていきたい。 ヘディングを落すと案の定ローリングが激しさを増し、3人でバランスをとろうにも抑えきれない。 舷側から容赦なく海水が流れ込む。 『メーデーメーデー』(心の叫び)
ジャバジャバー 「うわーっ!」
船長だった自分がいち早く海に飛び込む。 しかし、決して舟を捨てた訳ではない! 舟に半分ほど水が溜まってしまったら一人が降りて舟を軽くするのはとても効果的なのである。 3人乗りのまま粘ったあげくに沈するよりはよっぽど早くリカバリーできるのだ。

☆☆☆★★★☆☆☆★★★☆☆☆★★★☆☆☆

しかし、あのうねりには無駄な抵抗だった。 『えすぷり』はすぐに沈して派手に転覆した。 激しい波の中、懸命に水をキックして舟をうねりに対して立てるように回していく。 ひえー、キツイ!


そして舟を起こしてバケツで水をかき出し始めるが、波に揉まれて作業がままならない。 もう体力の限界だった。 結局この沈もフェリーざまみから双眼鏡で見られていたらしい。 必死にリカバリーした舟に乗り込んだところでゴムボートに来てもらいクルー交代を頼んだ。
CABOに戻った3人は放心状態でへたり込んでしまった。

今回のクルーの中で元々のセイラーは、私と、さっきまで一緒に乗っていたお杉しかいない。 あの風とうねりの中をセーリングできるクルーはもう残っていないのである。 控えの舵手達には難しすぎるコンディションだった。 私としては彼らにこの後を頼んだ、とはとても言えなかったのである。 「今回はリタイヤしないとダメかもしれない」と辺りに言い放ちフライブリッヂに倒れ込んだ。


吐き気をこらえながらクルー交代

CABOはしばらくその海域を動かなかった。 『えすぷり』がうねりに翻弄され苦戦を強いられていることを物語っていた。 私は激しく揺れるフライブリッジで船酔いに陥りながら『この波の中でサバニを曳航できるのだろうか』などとぼんやり考えながら目をつぶった。

30分ほど経ったであろうか。 船酔いの体が少し楽になってきた。 CABOが走り出したのだ。 何かあったのかと体を起こすと
「また走り始めましたよ!」
との状況説明。 すぐには信じられなかった。 が、外を見ると確かに『えすぷり』が航行を再開していた! 続けて、あのコンディションの悪い海域をなんとか脱出したこと、そこを抜けるためだけに1チームを費やしたこと、を聞いた。
『根性だ...』
正直、初めて結成したチームがいざというときにどれほどの根性を発揮するのか予想できていなかった。 そして、自分はリタイヤを覚悟していたことを恥じたが、今の状況に対する感動の方が大きかった。

チービシのクエフ島も横に見えてきたから残り5マイルほどだ。 相変わらず波は悪いが割と安定してセーリングしている。 どうやら前の二人はエーク(櫓)を持たず、四つん這いでひたすらバランスをとっているようだ。 スゴイ... 『おまえら、四つん這いになれ!』なんてイラちゃんじゃないと言えないよ... ま、そうゆう点でもまったく予想外の展開だった。 この調子でいけば、タイムリミットまでになんとかフィニッシュできそうだ。 すごい、すごい! 時折感極まって涙があふれてきたが、スコールを浴びてそれを隠した。


ヘルム+四つん這い二人の激走シーン

前の二人が四つん這いという変なチームは結局2時間半以上もレグを延ばしフィニッシュした。 やはり『えすぷり』の場合、基本は漕ぎではなくセーリングで良かったんだと実感する。 フィニッシュすると『えすぷり』から「ウォーッ!」と吠え声が聞こえた。 野獣化している。 13時59分。 トップ『ざまみ丸』の倍、6時間の時間は初挑戦の我々には十二分に充実、濃厚な時間であり、レース展開もこれ以上のものはない、と思える感動的なものになった。


フィニッシュ後セールダウンしているのは若手のオッくん。 スタート後のレグと合わせて4時間近く頑張った! ミジップは吠えるアガー、ヘルムは放心するkogaji。 イラちゃん、ゴムボートの伴走ありがとう!

後で聞いたところでは、過去8回中で最もタフな海況だったとのことで、上りも下りもうねりに対してだいたい45度の角度をとればなんとかセーリングできることが分かり、自信を持つことができた。 サバイバル航法として今後の練習の課題としたい。 また、ベタベタの無風というのを経験していないが、漕ぎを主体としても軽量の『えすぷり』には決して不利ではないはずだ。 ラダーなしの古式クラスも視野に入れ今後の活躍に期待ができる! 伝統、歴史を味わいながらあえて難しいものにチャレンジする、そのスピリットを大切にしたい。

最後に、大きな達成感を味あわせてくれる通好みで粋なサバニ帆漕レースを企画、運営してくださる関係者の皆さん、物好きなナイチャーを暖かく迎えてくださり色々教えてくださった沖縄の皆さん、ゴールドウィンをはじめ、関東から応援してくださった大勢の皆さん、全面的にバックアップしてくれた会社とスタッフ、すばらしいクルー達に心より感謝いたします。


翌日の空港で。 機内から眼下にチービシや慶良間が見えると熱いものを感じる。